愛の終身刑

微かに震えるそのやんわりと閉じられた目蓋に、そっと唇を落とす。
一つになりたいと、常々離れていなければならない距離を縮めて、誰よりも先に、何よりも深く、一つになりたいと願う、原始から続けられていた本能。
暖かくも激しい想いを、君の内部を満たし溢れるほどに絶え間なく注ぎ込み、安堵と快楽の溜息を導こう。

髪の毛一筋に至るまで、全て自分の思い通りに染め上げてしまいたい。
うわ言みたいに俺を呼び続ける唇からは、その単語以外にはもう、呼吸が侭なっているのかも疑わしい程に意味不明な声しか吐き出されない。

そして、唐突に気付く。

君の中で助けを求める相手は、俺しかいないのだ、と。
肉親や友人に至るまで、君は、自分から助けを求めたりはしないのだ。
誰かに縋る事も、助けを求めて名前を呼ぶ事もなく生きてきた片鱗が伺えて、俺は身を切られるより辛い痛みを覚える。

飽きるまで、呼び続けて欲しい。
せめて、打算を身に付ける、それまでは。

 

夢を願うだけでは、夢は夢のままだ。
無防備に肯定をするべきではない、とは思う。詰り、蔑んでしかるべきだ。

言葉に行動に。

全てを皮肉った形でしか受け取れない自分。
計算されて出された言動ならば、常々湯水の如く反撃の体を繰り出してきたが、本音と言うものに対してそれを覆せるだけのものは、そうそう簡単に見出せないものだ、ということはわかっている。

だから。

その絶望と切望の狭間で足掻きぬいた末に手に入れたこの温もりは、決して離すまい。
どれだけ後悔しても、どれだけ抑えても、それでも劣情は、ナイフの鋭さで理性を切り刻み貶めていくのだ。

 

唇から絶え間なく落とされる甘い悲鳴が俺の神経を縛りつけ、脊椎を貫いて後頭部を鷲掴みにする。
愛しくて、愛しくて、呼びかけられる毎に言葉にならない感情が溢れ、心地良い熱病にかかってしまったようだ。

もう駄目だ、と思う。

触れれば、少しは焦がれる想いが鎮火されると思っていた。
だが、その炎は激しさを増し、破壊された理性を何とか繋ぎ合わせ、やっとの事で対峙している自分の深い欲を駆り立てる。

 

足掻いても足掻いても適わない。
振り回されているのは君の方だと言うのに、そうと知らない君は、更に強く甘い愛で拘束されたがる。
含み笑いを洩らす唇を塞ぎ、五本の指に柔らかな髪を絡めると、君の手の平が俺の頬を包み込み、甘やかな言葉をせがむ。
だからと言って、君からの言葉はそう多くはないのだけれど。

それでも。

真意は探るまでもなく、触れ合っている肌の温もりが労わる心を伝えてきて、俺は静かに目蓋を下ろした。
呼吸の合間に懲りる事のない笑みが洩れ、俺は刑に服する誓いの口吻けを、改めて君の唇へと捧げる。

 

—— 愛の終身刑に。

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楽園の星

もしも

総てのモノが七色に輝く世界の人が
私達の世界の真っ赤な林檎を見たならば
なんて揺るぎなく鮮やかな存在なのだろう と
感嘆の声を漏らすに違いない

もしも

総ての音を天使が歌う世界の人が
私達の世界を吹きすさぶ嵐の音を聴いたならば
なんて力強く荒々しい存在なのだろう と
驚きに目を見開くに違いない

だから

まだ見ぬ理想郷を羨むのではなく
私達の住む 私達のこの美しい世界を
もっと見直そう

きっともっと好きになれるよ

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我侭なあなたへ

空を見ていた。

眼下に街並みを見下ろす小高い丘の上には、彼ひとりだった。
遥か遠くに、荒々しい頂きを天に伸ばす山々が見える。
といっても、はっきり見えたわけではない。そこに峰の高い山脈があることを知っていただけで、実際はうっすらと霞がかかり、印象はひどく曖昧だった。
ただただ、遠かった。どのくらい遠いのかを考えることはなかったが。

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伝説の山

遠くに見える あの氷の山には
今でも鎖に繋がれたドラゴンが
地上を見下ろしているのだという

かつて世界を脅かし
勇者の手によって封じられた
大きな怪物のお話は
真実を見た者の無い御伽噺

一説では
人ならざる美しさを持つ姫が
今だ 悪い魔法使いに囚われているとも聞く

遙かにそびえる その山の頂
今はまだ遠くても

いつか この足で
そして この目で

—— 伝説の 真実を

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LOVE

Love is real...

雑踏の中から浮かび上がるように聴こえてきた音楽は、わたしの足を止めるに十分だった。
何気ない歌詞。これ以上は無いといっていいほど単純な歌詞に、酷く胸を突かれたのだ。
とてもシンプルなこと。誰もが心の奥深くで意識しているのに、口には出さないこと。
久しぶりに彼の声を聞いたように思った。
わたしが一番言って欲しくないことをズバリと言い当ててしまう、予言者としての彼の声。

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緑色想曲 - 最終章

 ゆっくりと眼を開ける。

 見慣れた光景。
 真っ白い天井に、朝の陽射しが映って揺れている。いつもの、何1つ変わりない、目覚めの光景。

 そうして。

 私は何も思わなかった。
 いつもの、見慣れた光景。
 私はそれを、今、当たり前に受け止めている。自分の生に疑問を持つことも無く。

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緑色想曲 - 第11章

 ボウタイがはぎ取られたブラウスはもちろん、スーツもぐちゃぐちゃになった。

 私は浴槽に浸かりながら、溜息を落とす。

 「どした。ん?」

 諸悪の根源が、惜しげもなく逞しい裸体を曝して、私の顔を覗き込む。私は湯を掬うと、その顔目掛けて引っ掛けた。

 「ぉっと」
 「どした、じゃないわよっ。あのブラウスもスーツも、一応ブランド物なんだかんね。そりゃ、たかが喪服かもしんないけどさ……」

 スーツはクリーニングに出すとしても、少々、いや、かなり恥ずかしい状態になってしまってる。かといって、同じ物を買うとすれば安くは無い。

 「いいじゃねぇか。気持ち良かったんだろ?」

 そういう基準で物事を話しますか? 私は呆れて物が言えない。

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